令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等について

10億円を一つの成長ステージとして政策体系に組み込む方向性が明確化

8月31日に経済産業省は「令和9年度概算要求・税制改正要望について」を、中小企業庁は「令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等ポイント」を発表しました。

令和9年度概算要求では、中小企業政策についても「稼ぐ力」の強化と「賃上げ」の好循環を実現する「選択と集中・攻めの投資」に、政策の重点が置かれている点が大きな特徴となっています。こうして「賃上げ起点の成長戦略と地域産業クラスター形成(中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化と賃上げの好循環の実現等)」として1兆3,841億円が要求されています。成長ステージを意識した政策設計が、今回さらに具体化しています。

(出典)令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等ポイント(以下「ポイント資料」といいます)

主な特徴は以下の6点に整理できます。

1. 補正予算依存からの脱却と当初予算へのシフト

従来は年末の補正予算などとして計上されていた主要な補助金施策の一部が、「補正予算依存からの脱却」という政府方針に基づき、当初予算として要求されました。独立行政法人中小企業基盤整備機構運営費交付金が6,980億円要求されるなど、年間を通じた公募の予見可能性が高まったと考えられます。

2. 要求上限のない「強く豊かな日本」投資枠の活用

概算要求基準で新設された要求上限のない「強く豊かな日本」投資枠を中心に要求されました。

以上から、令和8年度概算要求では「中小企業対策費」として1,378億円要求されていましたが、令和9年度概算要求では「3.賃上げ起点の成長戦略と地域産業クラスター形成(中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化と賃上げの好循環の実現等)」として1兆3,841億円が要求されており、その9割以上の1兆2,818億円が投資枠に位置付けられています。

(なお、これは中小企業・小規模企業対策費が10倍になったという意味ではありません。投資枠による増額はありますが、昨年度まで補正予算として計上されていたものが当初予算に移行したことによる増額も、かなりの割合を占めています。)

3. 売上目標の追加と、成長宣言企業の拡大

「1億円、10億円、100億円といった金額で表現されるステージを目指す」ことで成長を促そうとする、売上規模の成長目標にマッチした支援の整備を目指そうとする政策設計が、複数の支援施策において明確になってきています。

  • 小規模事業者持続化補助金

例えば1億円を目指すなど、売上規模を拡大し「成長志向の経営計画(仮称)」 を宣言する者を含む小規模事業者等が、経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む販路開拓等を支援(ポイント資料)

  • 新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業

中小企業等の革新的製品・サービス開発や海外を含む新市場への進出等に係る設備投資等を支援。また、成長志向型の中小企業をより多く創出していく観点から、売上高10 億円を目指す宣言を原則として要件化(ポイント資料)

  • 中小企業成長加速化補助金

賃上げへの貢献、輸出による外需獲得、域内の仕入による地域経済への波及効果が大きい売上高 100 億円超を目指す中小企業の大胆な投資を支援(ポイント資料)

4. 「賃上げ」連動と価格転嫁・取引適正化の強化

「賃上げ」が重要な政策課題として位置付けられ、積極的に賃上げを行う中小企業・小規模事業者の後押しを目指しています。中小企業向け賃上げ促進税制の拡充や、早期の賃上げに向けた補助金の見直し、原材料価格等のコスト上昇分の適切な価格転嫁推進、中小受託取引適正化法(取適法)の厳正な執行や相談窓口の運営、取引 G メンによる実態把握等による取引環境の改善を目指すこととしています。

5. 省力化・デジタル・AI投資(AX)の統合と地域伴走支援

人手不足対応と生産性向上の両方を目指す「省力化・デジタル化・AI投資補助金」が要求されました。あわせて、地域全体でAI導入を伴走支援する「地域AXネットワーク事業」や業種別に AI 導入の進め方・手法を整理した「業種別ガイドライン」の作成・周知も挙げられています。

6. 資金供給・金融支援

成長を促進する中小企業金融として、中小企業信用補完制度関連補助事業費として518 億円を要求、民間金融機関単独では対応が困難な成長投資を信用保証でもって後押しするほか、経営の安定に向けたモニタリング機能の強化やセーフティネット機能を通じて、中小企業等への円滑な資金供給を実施することとしています。

また日本政策金融公庫補給金・出資金として604 億円を要求、民間金融機関と連携した成長資金の供給拡大を含め、中小企業・小規模事業者に対する同公庫の融資事業の円滑な実施を図ることとしています。

結語

今回の概算要求から、中小企業政策において「困っている企業を支える」だけではなく、「成長する企業を増やす」ことが政策目的として明確に組み込まれたと感じます。

企業成長を売上規模によるステージで捉え、そのステージに応じて政策支援を組み合わせる方向性が示されました。特に「売上高10億円を目指す」という経営者の意思を起点として、投資・生産性向上・賃上げ・金融支援をつなげていく政策体系の形成を目指す概算要求となっていると感じます。

もちろん、市場などの事情から成長を目指さない企業もあるでしょう。そのような企業については、収益性、生産性、付加価値などを高める「量ではない、質における成長」が推進されると考えられます。

これからの中小企業経営では、安易に「10億円を宣言すれば補助金や融資で有利になるらしい」と短絡的に捉えるのではなく、「自社の成長を考えるための基準(鏡)」として10億円を目標として立てるなど、自社の現在地と事業環境などを鑑みながら(量的・質的)成長を目指し、その実現に向けて設計・計画することが、これまで以上に求められると考えられます。

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