事業性評価が中小企業の資金調達を変える!

事業性評価とは何か

事業性評価について金融庁は「財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価」することと示しています(「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」)。金融庁はこれまで「金融検査マニュアル」を提示して、財務諸表を中心に企業をポイント化(スコアリング)してランク(債務者区分)付けする「信用格付け」により融資の可否を判断するよう求めてきましたが、近年になって、今までの方向性を転換して、企業の事業性に注目して融資を判断するよう促しているのです。

 

これは、財務データでは融資可能とは判断できなかった企業について、これまでは「担保・保証があるなら融資できる」という姿勢だったけれど、今後は「将来性があるから融資する」もしくはもう一歩進めて「対象企業は地域エコシステムのメンバーとして貢献してきたので、我が金融機関が『地域を盛り上げたい』と取り組む流れの中で支援すれば事業を続けることができ、地域を支えていける」という考え方に基づいて判断するよう促しているものと考えられます。

 

事業性評価のメリット

事業性評価によって企業、特に中小企業にとっては、今までは難しかった資金調達が可能になるというメリットがあります。信用格付けによる融資判断においては、プロパー融資(信用保証を使わないで、金融機関が単独で行う融資)は困難と判断されると、「十分な担保や保証があれば融資できる」という筋書きになります。しかし多くの中小企業は余力のある担保を提供したりや有力な保証人を立てたりすることはできませんから、信用保証協会の保証に頼らざるを得ません。信用保証協会の保証限度枠や「最近に保証したばかりだから、しばらく間を置きたい」などいう意向に影響されてしまうのです。事業性評価が浸透することで、「我が社にはこんな事業性がある。それを強化するために新たな取組をしたい。だから資金を調達したい」と説明することで、資金調達の道が拓けるかもしれません。

 

また、企業が「だったら当社の事業性を発見しよう。磨いて強化しよう」と動機付けられることも、事業性評価によるメリットだと考えられます。資金調達時は、事業改善に着手する絶好のタイミングですが、今まではこの二つは違う文脈で考えられるのが普通だったと感じられます。「金融機関は事業性を評価して融資してくれる」ことが分かると、自社の磨き上げに、より積極的になれると考えられます。

 

一方で事業性評価は、金融機関がビジネスを拡大するチャンスともなります。金融機関が低収益に苦しんでいるという報道を、多くの方がご覧になっているでしょう。金融機関は「自分たちは融資したいのだが、好調な企業はお金を借りる必要性が低い一方で、申し込んでくる企業には十分な担保や保証がないので融資できないでいる」と考えていたようです(金融検査マニュアルが誘導する信用格付けの枠組みが、その発想法の原因になったのではないかとの解釈もあります)。事業性評価の考え方に基づくと将来性がある企業や地域エコシステムのメンバーとして貢献してきたので支援を続けたい企業も融資の対象として検討できるようになります。

 

企業や金融機関が「事業性評価」により事業改善~地域の活性化を考えることで、そのメリットは地域にも及んでいくと期待できます。実際、平成25年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」の具体策の一つとして「地域金融機関等による事業性を評価する融資の促進等」が盛り込まれています。

 

 

事業性評価の進め方(金融機関)

事業性評価では、財務諸表だけではなく、事業内容や成長の可能性などについてもきめ細かく評価することになります。多くの金融機関は、SWOT分析(企業の強み・弱み・機会・脅威などに関する分析)や3C分析(自社や顧客、競合企業に関する分析)、その他の分析手法などを盛り込んだ「事業性評価シート」を準備し、必要な情報を収集して分析・評価して融資の可否を判断しているようです。また、企業が自発的に作成した事業計画書の提出を受けて事業性を評価する場合もあるようです。

事業性評価は金融機関が行うものですが、実は簡単な取組ではありません。そもそも情報が不足しているのです。今までの融資においては財務諸表や残高試算表(特に要望された場合には税務申告書決算書も)を提出すれば良かったのですが、これらの資料だけで事業性を評価できる可能性は少ないというのが、事業性評価融資をご支援してきた筆者の感想です。前項でも挙げたSWOT分析や3C分析は、財務データだけでは行うことが困難だからです。このため金融機関の中には、事業性評価を行うために、「以下の事項等についてのヒアリングがしたい」と申し出てくる時があります。これに、真摯に答えることが事業性評価を受ける第一歩です。

(ヒアリング事項:製造業の場合)

・何を作っているのか(主要製品)?

・どんな経緯で主要製品が決まったのか?

・仕入先はどこか、販売先はどこか?

・生産量はどれくらいで、単価はどれほどか?

・製造担当者や販売担当者は何人か?

・どんな設備があるか?今後に必要なのは?

・製品・設備・人材・技術等での当社の特色は?

・自社の強みと弱み、課題は?

・顧客・競合先・外部環境は?

・今後の見通しは?

・今後の事業展開・経営戦略

 

事業性評価を受けるために(中小企業)

金融機関は、事業性評価を行おうとする場合にヒアリングを申し込んで来る場合がありますが、中小企業の側から事業性評価を依頼することはできないのでしょうか?あります。中小企業の側から情報提供するのです。この場合、「ヒアリングして欲しい」と申し入れるより効果的な方法があります。事業計画を策定して、それを提出するのです。StrateCutionsがご支援した企業の中にも、以下を盛り込んだ事業計画書を提出することで事業性評価融資を得た事例があります。

<事業計画書の構成例>

・事業概要・沿革等

・経営理念、経営ビジョン等

・自社に関する分析(財務分析、SWOT分析等)

・顧客・競合先・事業環境に関する分析(3C分析等)

・今後の事業改善戦略・アクションプラン

・収支計画・投資計画・資金計画等