徹底的に絡みながら、徹底的に任せる

 

「稲盛会長は素晴らしい経営者だと思うけど、自分はあんな風にはなれないな。稲盛会長は現場に口うるさく関与していたようだが、それではミクロマネジメントではないか。それでは部下が育たないし、こっちの身も持たない」という社長さんがおられました。本当に、そうでしょうか。

高成長・高収益企業京セラの創業者でJAL再生の立役者でもあった稲盛JAL元会長の経営手法について、その功績から絶大なる信頼を置く経営者の皆さんが沢山おられますが、一部には、この社長さんのように「ミクロマネジメント」だとの感想を持たれる方もいるようです。この点については、あまり触れられることはありませんが、結構、大切なことのように感じられます。もし、「稲盛会長の経営手法はミクロマネジメントだから見習うべきではない」という意見が誤解に基づいていると、日本の産業・企業を活性化させる大きな原動力が、惜しいことに無視されてしまうことを意味しているからです。ここで、考えてみましょう。

稲盛会長が京セラに飛躍的な業績をあげさせ、JALを再生させた原動力はアメーバ経営にあったことは、皆さんもご承知のことと思います。アメーバ経営とは、企業内をごく小さな単位、4人から6人程度の単位に分け、それぞれに達成すべき指標値を与えて、その達成を目指すよう強く動機付けた経営手法です。アメーバ経営を実現するに当たって、稲盛会長が定期的に進捗会議(業績報告会)を開催し、そこでの報告が思うような内容でなかった場合には、かなり厳しい口調で指導し、時には叱咤といえるような状況であったことも伝えられています。

このような話から、稲盛会長がミクロマネジメントをしていたとの感想を持たれる人が出てくるのでしょう。大会社の経営者ともなると、現場で何が行われているかについては部下(執行役員や部門長、部長などとして働く人々)に任せて、自分が口をだすのは戦略策定やその進捗確認に限ると決めている経営者・上級マネジャーも少なくないと思われます。

稲盛会長の経営については、稲盛会長自身の著作に加えて、その周囲で支えた人たちが多くの記録を残しています。それらを読むにつけ、稲盛会長がミクロマネジメントをしていたとの記述を見つけることはできません。現場と親密な関係を持ち、時には口うるさく意見を述べ時には指示を出したとしても、それは「トップが現場を自らの手でかき回していた」とは受け取られてはいなかったようです。それは、どうしてなのでしょうか?

アメーバ経営とは、先にもご説明した通り、企業内のごく小さな単位、4人から6人程度にそれぞれ達成目標を与え、その達成状況でもって評価する経営手法です。但し、稲盛会長は、目標を与えたら最終結果が出る(例えば決算期)まで放置することはありませんでした。逆に、成果に繋がる指標値をできるだけ短期間で明らかにし、それをもとに評価や指示を行っていたようです。

企業内のごく小さな単位毎に、できるだけ短期間に活動指標・経営指標を出させていた目的は、何なのでしょうか?稲森会長が積極的に絡んでいったとしても、全ての職場についてリーダーシップを取ることはできません。残りは自分自身で判断し、実行していく必要があります。アメーバ経営は、実際は、ミクロマネジメントをするためのツールではなく、徹底的に現場に権限委譲するためのツールだったのです。

では、なぜ稲森会長は、業績報告会で口うるさく指示・指導していたのでしょうか?2つの意味があると思われます。1つは、制度維持です。企業内のごく小さな単位毎に、できるだけ短期間に活動指標・経営指標を出させるというアメーバ経営という制度を作っても、その小単位が主体的に判断・行動しなければ、日々出てくる活動指標・経営指標を生かさなければ、せっかくの制度の意味はありません。それを放置すると、アメーバ経営という制度そのものが衰退してしまうことでしょう。稲森会長は、それを防止し、積極活用するよう仕向ける役割を自ら果たしていたものと思われます。これはもちろん、ミクロマネジメントなどではなく、まさにトップが果たすべき役割です。

もう一つは、社内での考え方を統一させることです。アメーバ経営は、その性格上、意思決定や行動様式などの「考え方」に「ぶれ」の生まれやすい方法です。一つの会社で考え方に統一性がないと、まとまりのある意思決定や行動ができなくなります。つまり、組織としてのパフォーマンスが非常に低下する可能性があるということです。では、何を基準に統一していくか。トップの考え方を基準にするのが一番わかり易い方法です。それを行うために、稲森会長は、企業の全ての部門責任者が参加する場で、自分の考え方や期待する行動様式を説明していたのだと思われます。これもミクロマネジメントではなく、トップが果たすべき役割です。

稲森会長の言動に以上の目論見があったことは、特段、説明はされていないようです。しかし、先程も申したように、JALの中で稲森会長の言動について「ミクロマネジメントだ」と糾弾する声が上がらなかったことを見ると、紆余曲折はあっても、その心は皆さんに伝わったと判断することができるでしょう。稲森会長の言動が、まさにトップの役割を適切に果たす姿であることが、伝わったのだと思われます。

稲盛会長の、現場に徹底的に絡みながら、実は徹底的に任せていた姿は、私達にとって非常に参考になると思われます。

 



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