- 2017年6月25日
- Posted by: admin
- Category: コンサルタントの学び, マネジメント, 二代目支援, 二代目社長
先週あるセミナーに参加しました。
「100年経営企業家倶楽部」主催の第7回経営者フォーラムです。銀座の老舗テーラーとして有名な英國屋の小林英毅社長から『「後継者は何も分からない」を出発点とした経営』というお話を伺いました。
「『後継者は何も分からない』はひどく消極的なスタンスだな。それで社長が勤まるのか」とお考えになる方もおられるかも知れません。
しかし、この言葉は、消極的なスタンスを勧めるものではないようです。社長として前向きな、積極的なスタンスは忘れない、但し出発点は「何も分からない」という事実を踏まえたものであるべきだろう、という意味ではないかと感じました。
セミナーの冒頭で、小林社長は、英國屋に勤めるまでのいきさつをお話ししてくれました。もともとは英國屋を引き継ぐつもりはなく、パッケージソフトの開発・販売で躍進中の企業に就職されたとのこと。その後、(ご自分の気持ちの上では)やむなく英國屋に就職することになった時、そのソフト開発企業で行われていたマネジメントや、流行りのマーケティングを採り入れた改革を進めようとされたそうです。
しかし、その取り組みは先代社長や社員たちの猛反対に会います。「だったらこんな会社、やめてやる」と一度ならず思われたそうですが、なんとか思い止まって数年後、「あの時に先代や社員に反対されて良かった。自分の戦略が実現しなくて良かった」と思うようになったそうです。一斉を風靡したマーケティング策が失敗だったことが明らかになり、多くの企業が白旗を上げたからです。
しかし、よく考えてみると、先代や社員がソフト開発企業のマネジメントや流行りのマーケティングについて熟知しており、当時に英國屋で行われていたマネジメントやマーケティングと比較考量した上で反対した訳ではないでしょう。では、なぜ、先代や社員は自信を持って小林社長の案に反対したのか?
それは、多分、先代・社員と小林社長の間に、決定的な違いがあったからだと思われます。英國屋という会社についての、そして英國屋を愛顧してくれている顧客についての知識が、両者の間で決定的に違っていたのです。先代や社員は「小林社長が持ち込もうとするマネジメントやマーケティングが正しいかどうかなんて、それは分からない。でも、自社や顧客について深く理解していない人の言うことは聞けない」という気持ちだったのではないでしょうか。
そう思うと、小林社長はとても素晴らしいことに気が付かれたと思います。私は二代目社長さんをご支援する時に、「あなたは、自分より年上の人に移植された頭脳兼心臓の役割を果たす臓器だ」とお話しすることにしています。この頭脳兼心臓は、とても素晴らしい能力や資質を備えていることでしょう。しかし、移植された体については、何も知りません。そういう事情であることを、小林社長は身をもって理解されたのではないかと思います。
自分より年をとった体に移植された頭脳兼心臓が「自分はもっと早く走れるはずだ。もっと力を尽くせ」とか、「自分はもっと長く走れるはずだ。こんなことで弱音を吐かず、もっともっと走り続けろ」と体に強要したら、何が起きるでしょうか?ショック死してしまうかも知れませんね。そこまではいかなくても、いろいろとトラブルを抱えることになるでしょう。
ではどうすれば良いか?体について、これまでのことを良く知ることが大切だと思われます。頭脳兼心臓はスポーツ選手として鳴らしたが、体の方は室内で静かに暮らし、知的労働を得意にしていたかも知れません。
この場合、「いやいや、自分が頭脳兼心臓として入ったからには、リーダーにしっかりと従ってもらわなければならない。その方がうまくいくはずだ」と考えるのが得策でしょうか?「わかった。体の得意・不得意を踏まえて、当分はやっていこう。でも、そのうちに、自分の得意なことも受け入れてくれよな。その方が、両者の得意技が相乗効果を生みそうだし」と考えるのが得策でしょうか?多分、後者ですね。
これまでお見かけしてきた二代目社長の多くは、上の例えで言うと「自分が頭脳兼心臓として入ったからには、リーダーにしっかりと従ってもらわなければならない。その方がうまくいくはずだ」と考える傾向があったように思われます。「帝王学」という言葉をはじめとして、そう考えるよう促す下地もあるからでしょう。そして、先代や社員からの反対があると、やる気を失ってしまうのです。「せっかく自分が移植されてきたのに、その良さを受け入れてくれない」と考えてしまっているのかも知れません。
一方で体の方は、自分たちが死んだり重篤なトラブルに陥ってしまわないように、身を守る本能を発揮しています。だったら二代目社長としては「わかった。体の得意・不得意を踏まえて、当分はやっていこう」と考えた方が得策であり、現実的ではないでしょうか。このスタンスは、消極的とは限りません。体のことを積極的に学ぶというスタンスもあります。そして体の反応をみながら徐々に「自分の得意なことも受け入れてくれよな。その方が、両者の得意技が相乗効果を生みそうだし」と伝えていくこともできます。それこそが、前向きな姿勢といえるのではないでしょうか?
最後になりましたが、企業ができるだけ永続し、活躍していくことを目指す「100年経営企業家倶楽部」の皆さまのお取り組みに、改めて感謝したいと思います。皆さんも、もし興味をお持ちであれば、次回のセミナーに参加してみるのは如何でしょうか?
<100年経営企業家倶楽部>